「アラタさん!」
公園の奥にある使われなくなった教会。
古ぼけた扉を勢いよく押し開けて叫んだ。
若菜ちゃんと別れてから、急いで家に戻ってもアラタさんの姿は見えなかった。
焦る気持ちを無理矢理押さえつけて、行きそうな場所を考えて、きっとここだと思った。
去年、ここでクリスマスを過ごしたいと俺が言った場所。
こんな場所は嫌だと殴られたけど、きっとここだと思ったんだ。
「・・・真行寺・・・?」
薄暗い教会の中からアラタさんの声が聞こえた。
「よかった・・・・ここにいてくれて・・・・」
安堵のため息が出る。
ここにいなかったら、どこを探して良いのか判らなかった。
「どうして・・・ここに・・・なんで・・・」
突然現れた俺に困惑するアラタさん。
「だって・・・クリスマスはここで過ごそうって・・・言ったじゃん俺。」
アラタさんに向かってゆっくりと歩き出す。
「・・・真行寺・・・?」
見開かれた瞳。
そんなに驚いた顔、初めて見た・・・・・
たまらず走り出してしっかりと抱きしめた。
「アラタさん・・アラタさん!」
「・・・おまえ・・・・」
震える声・・・
「ごめん・・・アラタさん・・・」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。
「真行寺・・・お前・・・思い出したのか・・・?」
「ごめん・・・」
おそるおそる聞くアラタさんに俺は謝ることしかできなくて・・・
本当はもっと言いたいことがあったはずなのに。
きちんと謝りたかったはずなのに・・・
「ゴメンで済むか・・・馬鹿野郎・・・」
「ごめ・・・」
「・・バ・・カ・・・」
声を殺した嗚咽が胸を締め付ける。
震えるアラタさんの身体を抱きしめながら何度も謝った。
「ずっと側にいるから・・・泣かないでください。アラタさん。」
耳元でささやかれる言葉、俺を抱きしめたぬくもり。
2度と戻らないと諦めたはずのもの。
「いやだ。信じない。」
おまえ・・・俺から離れようとしたじゃないか・・・
「愛してます、アラタさん・・・・」
「そんな言葉信じない。」
何度も聞かされたけど、お前は俺のことを忘れた。
だからお前の言葉は信じない。それに・・・
「都合のいい夢を見てるのかもしれない・・・」
だから信じない。
「参ったな・・・・」
困ったように呟く真行寺。
「夢じゃないっすよ?アラタさん。」
そう言うなり、唇が重なる。
軽く、触れるだけのキス。
唇から、頬へ耳元へと小さな音をたてて触れる唇。
唇が触れるだけなのに、どうしてこんなに気持ちが満たされるのだろう・・・
「それだけじゃわからない。」
真行寺の首に巻き付いているマフラーを引き抜いて床へ落とす。
そのまま首筋へ軽くキスをする。
もっと触れていたい・・・お前がここにいる事をちゃんと感じたい。
触れ合わなかった時間は長すぎて・・・・
「アラタさん・・・ほんと誘うの上手すぎ。」
クスリと笑う声がくすぐったかった。
熱を持った肌に、冷たい空気は気持ちがいい。
重なる肌の熱さに溶けそうな意識を、かろうじて留めてくれる。
響くのは真行寺の荒い息づかいと、俺の甘い声。
いつもなら絶対出さないような甘い声も、今日は気にならなかった。
「そんなに甘い声出されたら・・・俺手加減できないよ・・・?」
「・・・は・・・ぁ・・・しなくていい・・・・」
いつもならこんな事言わないけど・・・・
「・・・アラタさんのこと壊しそうだよ・・・・」
「お前になら壊されてもいい・・・・」
今だけは素直になろう・・・・言葉にして言えないけど・・・・
俺がどれだけお前を必要としているのかを知って貰いたい。
激しいキスと突き上げる快感に何度も意識は飛びそうになる。
愛してると俺の名前を呼び続ける真行寺の声を全身で聞く。
ささやかれる言葉は何でも良かった。
その響きが俺を酔わせる。
何度イったかもう覚えていなかった。
「アラタさん・・・大丈夫?」
記憶が戻ったとたんヤってしまったと言うのも現金な話だとは思う。
でもあんな言葉で誘われては止まるわけはない。
なにしろ久しぶりな訳で・・・・・
そのおかげで全然手加減が出来なかった。
最中だってあれだけ甘い声で喘がれては無理というもの。
何度も何度も体を重ねて、ついにはアラタさんを失神させてしまった。
「・・・・・・・」
・・・・・今度は寝ちゃった??
気がついたのはさっき確認したから・・・・
「アラタさん?」
もたれかかっているアラタさんの顔をのぞき込む。
「アラ・・・うぅっ!」
すっごい目で睨まれた。
「・・・・ごめん・・・・」
咄嗟にでる言葉はこの一言だった。
「ウルサイ。」
そう言って唇がふさがれる。
「少し黙ってろ。」
「はい・・・」
再び訪れる沈黙。アラタさんの鼓動が肌に伝わる。
自然に抱きしめる腕に力が入る。
「お前、一生俺に頭上がらないな。」
ぽつりと呟く。
「そうッスね・・・」
よりによってアラタさんを忘れるなんて・・・・
自分自身を許せない。
「ちょっとやそっとで許すと思うなよ?」
「・・・はい。もうこうなったら何でも言うこと聞きます。」
俺に出来ることなら何でもする。
それでも償うことは出来ないかもしれない。
「そんなこと言って良いのか?何させられるかわかんないぞ?」
意地悪く笑うアラタさん。
いつものアラタさんだ・・・・・
「いいです。それ位しないと申し訳ないッス。・・・でも・・・手加減してくださいね?」
「そうだな・・・お前一生かけても償いきれないかもな・・・」
「はい・・・」
「本当に分かってるのか?」
「はい。」
死ぬまで・・・例え死んでもアラタさんのそばを離れない。
何があっても・・・
「死ぬまで・・・俺の側で償い続けろ・・・」
「・・・え・・・」
それって・・・・アラタさん。
もしかして・・・・ずっと側にいて良いって事ですか?
「わかったか?」
拗ねるような声。すごくうれしいかも。
「・・・はい。俺も愛してます。」
アラタさんの額にキスをする。
「ちょっと待て。『も』ってなんだ?俺は愛してるだなんて一言も言ってないぞ?」
むっとした表情で顔を上げるアラタさん。
「だって今の愛してるって言ってくれたんでしょ?本当はちゃんと言って欲しいけど、今ので十分です。」
ゆるむ頬は押さえられない。
「なっ!勝手に変換するな!」
「そんなに顔赤くして怒鳴られてもなぁ〜」
「ウ・ル・サ・イ!」
ボカリと殴られる。
「痛いっすよ、アラタさん・・・・・」
これ以上殴られないようにときつく抱きしめて動きを封じる。
離せともがくアラタさんにキスをする。
「離しません。ずっと側にいろって言ったのはアラタさんですからね。」
「・・・・現金な奴。」
ため息とともに呟くとアラタさんはもがくのをやめた。
ふと、窓の外に目を向けると、ひらひらと白い雪が舞っていた。
「アラタさん。外雪降ってる。」
「ああ、ホントだ。今日は寒かったからな・・・」
純白の雪が屋根の穴のあいた部分からおりてくる。
二人でしばらくその雪を眺めていた。
あの夏の日の忘れ物は、真っ白な雪と一緒に俺の元へ帰ってきた。
「真行寺・・・・」
聞き取れるギリギリの小さな声。
「なに?」
聞き逃すまいと耳を近づける。
「ずっと・・・側にいろよ・・・もう2度と離れるな・・・」
それは・・・
俺にとって極上の愛の告白だった・・・・・
|