ディスクライトだけの明かりの部屋の中。
ふと時計に目をやると11:10分を指していた。
「予想通り。朝までは帰ってこないな。」
同室者不在の270号室。
向かいのベットは空のまま。
「一人ってのはやっぱり気楽でいいな。」
べつに葉山が鬱陶しいとかそういうわけではないけれど
その空間に自分一人だけの気配というのは落ち着く。
夕方の『お預け』のおかげで真行寺はキャンキャンよく吠えた。
まさか本当に猫鍋にするわけにも行かないので
憂さは真行寺でしっかり晴らせてもらった。
あの後、もう一回同じ事をしてやった。
コンコン。
不意に扉を叩く音がした。
葉山?・・・鍵持たずに出たのだろうか。
「鍵はかけてないよ。葉山。」
そう声をかけて扉へ近づく。
カチャ。
ドアノブに手をかけるのと同時に扉は開いた。
「やっほ。アラタさん♪」
バタン。
「・・・・・・・。」
俺は何も見なかったことにして机へと向かう。
「ひでぇ!速攻しめるしっ!」
少し抑えた声で文句を言いながら真行寺は部屋の中に入ってきた。
「真行寺。今何時だ?」
「へ?えーと、11:15分。アラタさん時計壊れたの?」
誰がそんなことをきいてるか。ばか。
「消灯は何時だ?」
深いため息。
「11時。アラタさんまさかアルツハイマーとかってやつ?」
にこりと笑う真行寺。ドカッとけりつけてやった。
「いってぇーーー。」
「さっさと帰れ。」
凶暴だよ、アラタさん〜。と脚をさする真行寺に一言。
「葉山サンは?」
「なんだ?こんな時間に葉山に夜這いか?あいにく葉山は帰ってこないよ。
残念だったな、真行寺。」
「そんなんじゃないよ。アラタさんに夜這い。」
そっか。葉山さんいないんだ。ラッキー。そう呟く真行寺。
「ラッキーじゃない。帰れ。」
くるりときびすを返して机に向かって書類に目を通す。
1週間後に控えたオセロ大会。
前から計画していた諸々の事項。
突然後ろから抱きすくめられた。
くせっ毛の柔らかい髪が頬にふれてくすぐったい。
「アラタさん。・・・俺、限界。」
「あいにく俺には余裕がある。」
「・・・・・はぁ。」
ガクッとうなだれてため息をつく真行寺。
もう少しいじめたら泣き出すかもしれないな。
「ワン、ワン。クゥーン。パタパタ。」
・・・・はぁ?
「なんだそれは。」
「ご主人様に甘えてしっぽ振る犬の真似。」
甘えた声で真行寺が言う。
茶色い大きな犬がふせめがちに俺を見上げて
尻尾を振ってる姿を思い浮べると可笑しかった。
「バカだな、おまえは。」
「うん。バカだからアラタさんのことしか考えらんないの。」
小さなささやき。
耳に心地いい。
「仕方のない奴だな・・・・・」
真行寺が腕の力を緩めるのと、俺が体を動かすのとは同時だった。
「葉山が帰ってきたらどうするつもりなんだ?」
「その時考える。」
ゆっくりと重なる唇。
熱い吐息。
仕方がないのは俺の方か・・・・・
頬に、耳元に、首筋に、胸元に静かに通り過ぎていく口づけ。
背に触れる冷たいシーツとは反対に熱く火照る真行寺の身体。
ふれた唇から、ふれた指先から・・・・
徐々に溶かされていく俺の氷。
すべて溶かされて、全部をさらしてしまう日が来るのだろうか・・・? |