秋風 −夢の途中−

詞堂の体育祭は秋。
文化祭の翌日に行われる。
高揚した文化祭の雰囲気をそのままに、体育祭は行われる。
一般の観戦は無いとはいえ、騎馬戦やら玉入れやら綱引きやらと
体育祭の伝統種目があり、なぜかみんな本気で取り組むためか
毎年白熱した物になるらしい。
確かに、山奥に幽閉されるような形の生活環境においては
何事にも楽しまなければやってられない、といった心理も働くのだろうか。

とは言え、全くその通りだと自分でも思ったりするのだが・・・

天候は快晴。
絶好の体育祭日和。
校庭にはためく旗がなぜか心を躍らせる。



「おまえ明日、何にでるんだ?」

文化祭も無事に終え、翌日に控えた体育祭の設営テントの準備に駆りだされ
ホコリまみれになりながらこき使われた後。
噴水でアラタさんと過ごしたときの会話を思い出す。

「騎馬戦と障害物と棒倒しと綱引きっス。」
「ふぅ〜ん。限度一杯まででるんだな」
詞堂の体育祭は一人1種以上4種目まで。
補欠登録は2つまでで、運が悪ければ6種が最高となる。
「そうっスよ。がたいがでかいから見事に全部モロ肉体労働っスよ。」
嘆く俺にアラタさんはにこやかにほほえんで言ったんだ。

「全種1位とまではいかなくても2位以上だったらご褒美をやるよ。」

不意打ちの有料スマイル。
クラリときて「珍しいッスね・・・」といったら
2位以下だったらしっかり徴収するよ。と言われた。
何か企んでいるような気がするのは気のせいだろうか・・・?


俺も、アラタさんも紅組。
クラス別に紅白で分かれて全学年で点数をあらそう。
総合の点数は全学年紅白で累計される。

「真行寺!障害物集合だってさ。4番ゲート。」
「今行くー!」
友人の声に答えてちらりと本部に目をやった。
忙しそうに書類と、係りの生徒に往復させていたアラタさんの視線が
不意に俺を見た。
口元に浮かべるいつもの笑顔。
「わかってるな?」
声は聞こえないけれどそういっているような気がした。
「もちろん!」
と答える代わりに小さくVサインをした。



「それじゃ、このまま変更してくれてかまわないから。」
「はい。わかりました。」
ふと、歓声の上がるグラウンドに目を向ける。
今行われているのは第3競技の障害物走。

そびえ立つ12段の跳び箱。交互に複雑に並べられた平均台。
その向こうには膨らませた風船の川。ネット。
そして、詞堂伝統の仮装。演劇部から拝借した衣装やらが詰められた
段ボールが転がっている。

風船のバンバン割れる乾いた音が聞こえる。
その脇で必死に風船を追加する実行委員。
その追いかけっこがおもしろかった。
ちょうど真行寺はネットをくぐっているところだった。
前を走る者はいない。
俺の予想通り真行寺は頑張ってくれているようだ。
最終コーナーを回り仮装用の段ボールの一つを開けた真行寺は
一瞬固まった様に見えた。
すぐに中の衣装に手を伸ばすと急いで着始める。
本部からは遠目でよく見えないけれどマントのような大きい布が見える。
トラック近くの応援席からはひときわ大きな声援が聞こえている。
・・・あれは・・・運動部の芸だしの時の衣装じゃないのか??



「めちゃくちゃハズレじゃぁぁぁん!!!」
せっかくここまで一番できたのにこれはないよ!
つい昨日着ていた眠れる森の美女の王子の衣装。
ひらひらのブラウスにパンツにマント。
細かいアクセサリー類はなく最低限だったけれど
どう見たってこれはハズレだ。着るのに手間がかかる。
大急ぎで衣装に袖を通していく。
せめてもの救いは「着慣れている」こと。
応援席からはからかいのヤジが飛んでくる。
「王子サマ〜一等賞取ったら姫から祝福のキッスを差し上げますわぁ〜」
同じ剣道部の栗原がしなをつくってそう叫んだ。
とたんに周りから笑い声がきこえる。
「うるせぇ!いらねーよ!!」
着ながらも叫び返す。

ちゃんとお姫様からしてもらうからいらないよ。
キスどころかその先だってもらってやる・・・・多分。
多分だけどさ・・・・

ベストを羽織って走り出す。
走りながらボタンを一つだけ留めた。
ほぼ同時に走り出したのが一人。
・・・・・バニーちゃん?
ジャージの上から黒い水着みたいなのを着て手首にフサフサ。
揺れるウサギのミミが落ちそうだった。

バニーには負けたくないな・・・・それにこいつは確か白組・・・
おれは全力で走った。なんとか僅差で先にゴールできたようだ。
ゼーゼーと肩で息をしている俺に係りが旗を持ってきた。
数字は「1」。
あと3つ!おれはアラタさんのいる本部に向かって大きくガッツポーズをした。


綱引きは各学年ごとに順位がつけられる。
1位は100点。2位は50点。3位は20点。
力業の多い競技は得点数が高い。
グラウンドでは3年生が決勝をしている。
2年は早々とE組が1位を勝ち取った。
1年は決勝まで残ったものの、真行寺のC組は2位となった。
顔を真っ赤にしながら最前列で綱を引いていた真行寺は
負けが決まった途端、がくっと膝をついてうなだれていた。
きっとどうせなら全部1位になってやると思っていたに違いない。
真行寺は友人達と一緒に応援席へと戻っていった。
綱引きは午前の部、最終競技だ。
1時間後に午後の部が組み体操から始まる。
その次は借り物競走、棒倒し、騎馬戦。そしてトリを飾る対抗リレーと続く。
俺は騎馬戦に出る予定だ。
三洲が騎手なら誰も手は出せないだろうと踏んでのことだ。
現時点での得点数は白が726。紅が755。
僅差ではあるが紅組が勝っている。
午後の得点の高い競技で左右されるだろう。
勝負は文字通り、最後までわからない。


「おい、真行寺。午後のために体力補充させておけよ〜」
「ウーーーッス。」
クラスメイトの声に力無く返事をする。
綱引きで完全燃焼。
したにもかかわらず結局2位。
約束は2位以上だからまだ大丈夫なんだけど、やっぱりどうせなら・・・ね。
団体種目じゃ仕方のないことかも。
裏庭の茂みの陰にごろんところがる。
遠くで聞こえる賑やかな音楽と人のざわめき。
涼しくなった風が心地よかった。
腕時計のアラームを集合10分前にセットして目を閉じた。

きっとアラタさんは紅組の勝ちに貢献しろっていってるんだよね。
負けず嫌いだからなぁ、あのひと。



少し疲れたのか、一人になりたくていつもの茂みに向かう。
パブリックのウーロン茶と鮭おにぎりが2つ。
食欲はそんなに無いけど少しは胃に入れた方が良いだろう。
ふと、足が止まる。
見慣れた寝顔。真行寺がそこにいた。

「眠れる森の美女ならぬ王子サマ、か。」
静かに横に腰を降ろして寝顔を眺める。
疲れているのか起きる気配はない。
第一、一度寝付けばこいつはなかなか起きない。
らしくないなと思いながらもあまり音を立てないように
袋からおにぎりを取り出す。
普段ならたたき起こすだろうに。
風が髪をすり抜けていく。居心地が良いのはなぜだろうか・・・

体を許すような付き合いをOKしたのはほんの気まぐれ。
単純そうなこいつを憂さ晴らしの相手に選んだ。
気が付いたら、それ以上の想い。
それでも今までのスタンスを崩すことは出来なくて
必要以上に辛く当たってしまう。
屈託のないこいつの笑顔に少しだけ、安らぎを感じ始めている。

出会って1年もたっていないのに・・・・
こいつはいつの間にか大きな存在になっていた。
気がつけば集合15分前。
もうそろそろ本部へ戻らなければならない。
ついでにこいつも起こしておこうか。
すっと、身を乗り出して顔をのぞき込む。

・・・こいつ、寝起き悪いし、平気だよな・・・?
静かに、ゆっくりと額に口吻ける。
本当にらしくない。可笑しくて小さく笑いが漏れた。
さっさと起こそう。
「・・しん・・・!!??」
声をかけようとした瞬間、いきなり腕を引かれた。
「なっ!?」
しっかりと真行寺の腕の中に抱き込まれた。
「オハヨウ。アラタさん。」
しっかりとした声。すこし笑いを含んでいるのは気のせいじゃないな。

こいつ・・・・最初から・・・

「何が「オハヨウ」だ。起きてたんだろ。おまえ。」
「寝てたよ。途中までは。」
ぎゅっと抱きしめられた腕に力が入る。
「真行寺。苦しい。」
そんなに苦しくは無かったけれど・・・・

「だって、ちゃんと捕まえてないとアラタさん逃げちゃうでしょ?」
「そんなことしなくても・・・・」
逃げたりなんかしないよ。
「え?」
あわてて言葉を飲み込んだ。
これ以上こいつを調子付かせるわけには行かない。
「どうでも良いが、そろそろ集合だぞ。」
「んー・・・体力補充中。」
「・・・・」
どっちかって言うと減るんじゃないのか?
「うーん。このままこうしてたい。」
「冗談じゃない。俺は忙しい。離せ。」
離せと言う割に離れようとしない。離れたくないのは俺も同じか・・・

急に腕が俺から離れていった。
「充電完了♪」
体を起こすとにっこりと笑う真行寺。
「ばーか」
髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやった。
「午後、俺頑張りますからね。ちゃぁんと見ててくださいよ、アラタさん。」

そういって笑った真行寺の笑顔は太陽の光を背負ってまぶしかった・・・・

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と言うわけで続きます(´Д`;

長すぎて一気に載せる気になりませんでした。
体育祭です。CDブック夢の後先のおまけ、夢の途中の後になります。
読まれてない方にも判ると思うのですが(^^;;;;